【相続】遺言書がない場合に想定されるトラブルや余計な手間について

相続対策には「遺言書」が有効であると、聞かれたことがある方も多いと思います。なぜ遺言書が有効なのか?よりも、「遺言書がない場合にどんなトラブルや面倒くさいことが待っているか?」を解説した方が、前向きに書いていただけるキッカケになるのではないか?と思いこの記事を書くことにしました。

残されたご家族に余計な負担やトラブルを生まないよう、参考にしていただけますと幸いです。

1. 相続人同士の揉め事勃発!?

遺産分割協議は、相続人全員で話し合い、遺産をどのように分けるか決めなければなりません。しかし、親族間の感情や価値観の違いから、意見が対立し、揉めてしまうケースが少なくありません。

例えば、

  • 長男夫婦と次女が、思い出の詰まった実家を巡って意見が対立する。
  • 相続人の中に認知症の高齢者がいるため、協議が長引く。(詳しく後述します)
  • 遠方に住む相続人がなかなか集まれず、協議が進まない。

など、スムーズな遺産分割協議が難航し、関係悪化や精神的な負担が大きくなってしまうことも。

特に不動産のような簡単に分けられない財産の扱いや、子供の有無(遺言者のお孫さん)によっても意見が対立しやすくなります。

相続人が認知症の場合、遺産分割協議が難航します

遺言者が亡くなった時点で遺言書がない場合、遺産分割協議といって財産をどのように分けるか、法律で定められた相続人全員で話合いを行うことになります。このとき、相続人の中に認知症の方がおられた場合、遺産分割協議が難しくなります。なぜなら、認知症の方は法律上「正常な判断をする能力」が不十分であるとみなされる為、正常な判断が出来ない方が行った話合いは有効なのか?という問題が出てくるのです。そのため、認知症の方がおられた場合は家庭裁判所に話を通して、後見人さん(通常は弁護士や司法書士などが専任されます)の立会いの下で話合いをしなければならず、時間もお金もかかります。

その点、遺言書で事前に書いておくと、認知症であろうとなかろうと、基本的には遺言書の通りに財産を分けることになるため、手間もお金もかからずに済みます。

2.法律で決まる相続分、あなたの希望と一致する?

遺言書がない場合は、民法で定められた法定相続分に基づいて遺産が分配されます。例えば奥さまと子供2人(仮に長男・次男とします)が相続人の場合の法定相続分は以下の通りです。

奥様・・・相続財産の1/2  長男・・・1/4  次男・・・1/4

法律で決まった通りであればこの通りです。一見、平等に見えますが仮に下記のような事情があったとしたらどうでしょうか?

長男・・・結婚して子供2人。親孝行で、定期的に孫の顔を見せに実家に訪ねてきてくれる。

次男・・・独立してからは家に寄り付かず、結婚もせず、もう何年も顔を見ていない。

こういった場合でも、法定相続分通りに分けるのが平等だと言えるでしょうか? 遺言者さんの心情としては、「長男に多めに渡してあげたい」と思うのではないでしょうか? 遺言者さんの希望を実現させてくれるもの、それが遺言書だったりします。

他にも下記のようなケースが想定できます

上記の例以外にも、例えば下記のようなケースは遺言書は出来れば書いておいた方が良いです。

  • 再婚していて前婚の子がいる場合。(前婚の子も相続人になります)
  • 逆に今の奥さまに連れ子がいる場合。(連れ子は養子縁組をしていなければ相続人から外れます)
  • 他にも親しい友人やお世話になった方など、法定相続人以外に遺産を分けたい場合。(遺贈と言います)
  • 不動産などの簡単に分けられない財産がある場合。(共有にすると更なるトラブルの元になる)

こういった場合でしたら、遺言書があることでトラブルのリスクを最小化することが出来ます。

3.亡くなった後の手続きが圧倒的に楽

その他にも遺言書を残しておくことで、様々な手間が省かれます。例えば遺産分割協議ですが、遺言書があれば基本的には遺言書の通りに財産を分けて行きますので、話合いの必要がなく、粛々と遺産を分けて行くだけの作業になります。

また、預金の解約や不動産の登記変更なども、遺言書に置いて遺言執行者を決めておくことで、遺言執行者がお一人で手続きを進めて行くことが出来るため、相続の手続きが圧倒的に楽になります。(仮に預金の解約などでも、遺言執行者がいない場合、相続人全員の実印と印鑑証明が必要な場合が出てきます)

4.遺産分割協議がまとまらない場合

遺言書がある場合は基本的に遺言書で決められた通りに財産を分けていきますが、遺言書がない場合は、相続人全員で遺産をどうするのか?を話し合う「遺産分割協議」が行われます。全員で集まるのもそもそも手間なのですが、仮にこの話合いがまとまらない場合はどうなるか? その場合は家庭裁判所に調停の申し立てをすることになります。

当然、弁護士さんに手続きをしてもらうことになりますので、費用も高額で時間も手間もかかります。ご家族が亡くなられて傷心の中、更に精神的負担を負うことになるのは避けたい所ですよね。

参考:相続調停一覧(裁判所HP)

5.まとめ

今回は遺言書がない場合に想定されるトラブルや余計な手間について解説させていただきました。遺言書は亡くなられた後の死後事務手続きの負担を大幅に軽減できる為、ご家族の負担が少なくなります。「うちは遺産が少ないから大丈夫」「家族の仲が良いから問題ない」「死んだ後の話しをするのはまだ早い」ではなく、思い立ったタイミングで遺言書を書いておくことをおススメします。

投稿者プロフィール

出野 勝巳
出野 勝巳
1980年生まれ。若い頃はしがないバンドマンでヴォーカルをしていた。
不動産会社に勤務する傍ら、お酒を止めたことを機に39歳から勉強を始め、宅建を皮切りに管理業務主任者、簿記2級、行政書士と資格取得を通じてステップアップし、開業に至るという変わった経歴を持つ。