【契約・不動産】不動産契約における消費者契約法による取消し

不動産契約は、一般の消費者にとって一生に一度の大きな買い物となることが多いです。しかし、その契約内容が不当であったり、誤解を与える表現や虚偽の事実に基づいて結ばれたものであった場合、消費者はどうすればよいのでしょうか。ここで重要なのが「消費者契約法」です。本記事では、不動産契約における消費者契約法による取消しについて、具体的な例を挙げながら詳しく解説します。

参考:本記事は消費者庁のHPと周辺知識を元に記載しています。

消費者契約法とは

消費者契約法は、消費者が事業者との契約において不利益を被らないように保護することを目的とした法律です。この法律は、消費者が誤認や困惑によって契約を結んだ場合に、契約を取り消すことができると規定しています。主な条文として、第4条と第8条が挙げられます。

第4条

第4条では、事業者が消費者に対して不実のことを告げたり、重要な事実を告げなかったりすることによって誤認させ、契約を結ばせた場合、消費者はその契約を取り消すことができると定めています。

第8条

第8条では、消費者に不利益を与えるような契約条項が無効とされることについて規定しています。

消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し

第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効

第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

参照:e-Gov法令検索 消費者契約法

不動産契約における取消し事由

消費者契約法に基づいて不動産契約を取り消すことができる具体的な事由について見ていきましょう。

誤認による契約(第4条第1項)

事業者が消費者に対して不実のことを告げ、消費者がそれを信じて契約を結んだ場合がこれに該当します。

具体例:誤解を招く広告や説明・不実告知・断定的判断の提供
あるマンションの販売広告で、「駅から徒歩5分」と記載されていたにもかかわらず、実際には徒歩15分かかる場合、消費者は誤認に基づいて契約を結んだとして取り消しを求めることができます。

困惑による契約(第4条第2項)

事業者が強引な勧誘を行ったり、消費者に心理的圧力をかけたりして契約を結ばせた場合がこれに該当します。

具体例:強引な勧誘やプレッシャー、不退去、監禁等
不動産営業マンが消費者に対して、「今すぐ契約しないとこの物件は他の人に取られてしまいます!」と何度も迫り、消費者がプレッシャーに負けて契約を結んでしまった場合、困惑による契約と見なされる可能性があります。

具体例:消費者契約法による取消し事例

ここでは、実際に消費者契約法によって不動産契約が取り消された具体的な事例を紹介します。

誤認による取消しの具体例

ある消費者が新築マンションを購入した際に、「全室南向き」と説明を受けました。しかし、実際に契約してみると、自分の購入した部屋は北向きだったという事例があります。この場合、消費者は誤認に基づいて契約を結んだとして、消費者契約法第4条に基づいて契約を取り消すことができます。

困惑による取消しの具体例

ある消費者が営業マンから長時間にわたって契約を迫られ、「この機会を逃すと他に良い物件はない」と何度も強調されたため、プレッシャーを感じて契約を結んでしまった事例があります。この場合、消費者は困惑による契約として消費者契約法第4条に基づいて取り消すことができます。

取消しの手続き

消費者契約法による契約取消しの手続きについて説明します。

取消しの申立方法

まず、消費者は事業者に対して、書面で取消しを求める意思表示を行う必要があります。この際、契約が誤認や困惑に基づいて結ばれた具体的な理由を明示します。

必要な書類や証拠

取消しを求める際には、契約書、広告や説明資料、営業マンとのやり取りの記録など、契約の誤認や困惑の状況を証明するための証拠を提出することが重要です。

消費者契約法による取消しの効果

消費者契約法による取消しが認められた場合、契約は初めから無効となり、消費者は契約に基づいて支払った金額の返還を求めることができます。

消費者が注意すべきポイント

消費者が不動産契約を結ぶ際に注意すべきポイントをいくつか挙げます。

契約前に確認すべき事項

  • 契約内容や物件の詳細をよく確認する
  • 不明点や疑問点は必ず質問し、納得するまで説明を受ける

※特に売買契約の重要事項説明を受ける際には、必ず録音をしておくようにしてください。重要事項説明書は説明自体が長時間におよび、出てくる言葉も聞きなれない用語も多く、集中力も切れてしまって、最初から最後まで注意深く聞いておくことはかなり難しいと思います。そのため、重要事項説明の際はかならず録音をしておくようにし、言った・言わないといったトラブルのリスクを最小化する努力をするようにしましょう。

不審な点があった場合の対処法

  • 契約を急がされる場合は慎重になる
  • 契約書にサインする前に、信頼できる第三者(弁護士や不動産の専門家)に相談する

もし少しでも不安な点がある場合には、契約書の内容を弁護士にチェックしてもらう等することが最適だと思います。(行政書士も内容のチェックは可能ですが、後々トラブルが発生したときはいずれにせよ弁護士に相談することになりますので、初めから弁護士のチェックの方が良いと思います)

まとめ

不動産契約は大きな買い物であり、消費者が誤認や困惑によって不利な契約を結ぶリスクがあります。消費者契約法は、消費者を保護し、不当な契約を取り消すための重要な法律です。消費者は、この法律を理解し、自らの権利を守るための行動を取ることが大切です。

消費者契約法を正しく理解し、賢く活用することで、不動産契約において安心して取引を進めることができるでしょう。

投稿者プロフィール

出野 勝巳
出野 勝巳
1980年生まれ。若い頃はしがないバンドマンでヴォーカルをしていた。
不動産会社に勤務する傍ら、お酒を止めたことを機に39歳から勉強を始め、宅建を皮切りに管理業務主任者、簿記2級、行政書士と資格取得を通じてステップアップし、開業に至るという変わった経歴を持つ。