自筆証書遺言書保管制度とは?通常の自筆証書遺言との違いを解説します

2020年から自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる「自筆証書遺言保管制度」という制度が出来ました。公正証書遺言よりもずっと安く、改ざんの可能性も低くて、仮に相続が発生した際に裁判所の検認も必要ないとのことで注目されている制度です。その具体的な内容はご存じない方も多いと思いますので、概要を解説していきます。

参考:自筆証書遺言保管制度について

自筆証書遺言保管制度とは?

自筆証書遺言書保管制度とは、法務局(遺言書保管所)に自筆証書遺言書を預け、保管してもらう制度です。従来の自筆証書遺言は、自宅で保管するため、紛失や改ざんの危険性がありました。しかし、この制度を利用すれば、法務局という公的機関で厳重に保管されるため、安全に遺志を継承することができます。

項目自筆証書遺言自筆証書遺言書保管制度
作成方法自筆で作成自筆で作成
保管場所自宅法務局(遺言書保管所)
紛失・改ざんのリスク高い低い
検認の必要性あるない
通知制度の有無なし(ご遺族が遺言書を探す)法務局が自動的に相続人に通知
費用無料3,900円(税込)

ちなみに遺言書の原本は50年間、画像データとしては150年間、法務局で保管されることになります。

自筆証書遺言保管制度のメリット・デメリット

上記の表でも触れましたが、通常の自筆証書遺言と比べたときのメリット・デメリットを解説していきます。

自筆証書遺言書保管制度のメリット

  • 紛失・改ざんの危険性が低い・・・ 法務局という公的機関で厳重に保管されるため、遺言書が紛失したり、改ざんされたりするリスクが低くなります。
  • 検認手続きが不要:・・・相続人が家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受ける必要がなく、手続きが簡素化されます。(通常の自筆証書遺言は裁判所で確認が必要)
  • 法務局が相続人に通知・・・ 法務局が相続人に遺言書が保管されていることを通知するため、相続人同士で遺言書の存在をめぐる争いが起こりにくくなります。
  • 遺言書の有効性をチェック:・・・法務局が遺言書の形式的な要件を満たしているかどうかをチェックしてくれるため、遺言書が無効になるリスクが低くなります。

※但し、その遺言書の内容が問題がないかまでを判断してくれるわけではない為、遺言の内容自体が紛争の原因となる可能性は残ります。

自筆証書遺言書保管制度のデメリット

  • 費用がかかる:・・・3,900円(税込)の費用がかかります。また、ご自身で行うのは大変ですので、士業に依頼された場合は士業の報酬も発生いたします。
  • 原本を確認できない:・・・原本は法務局で厳重に保管されるため、相続人は原本を確認することができません。(遺言者の死亡後でないと相続人は確認できません)
  • 遺言内容の変更が難しい・・・一度保管した遺言書の内容を変更するには、新しい遺言書を作成して保管するか、撤回の手続きを取る必要があります。

具体的な利用方法

それでは自筆証書遺言保管制度を利用する場合の、具体的な手続き方法と必要書類を見ていきましょう。当然ですが、自筆証書遺言の遺言書自体はご自身で書いていただくことになります。

遺言書の準備が出来ましたら、遺言書保管場所に事前予約をした上で、予約した日時に遺言者本人が保管場所に行って手続きをしていただきます。必要書類は以下の書類です。

  • 遺言書(ホチキス止め不要)
  • 保管申請書(あらかじめ記入して持参)
  • 住民票の写し(本籍&戸籍の筆頭者記載要)
  • 顔写真付きの身分証証明書(免許証やマイナンバーカードなど)
  • 手数料3,900円(収入印紙でご準備ください)

手続きが終了しましたら「保管証」を発行してもらえますので大切に保管ください。法務局に遺言書を預けたことをご家族にお知らせになる場合は、この保管証を利用されるのが便利です。

遺言書情報証明書の請求

相続が発生した際には「遺言書情報証明書」を発行してもらいます。交付の請求ができる者は、相続人・受遺者・遺言執行者等、またはこれらの親権者や成年後見人等の法定代理人となっています。請求の際の必要書類は以下の通りです。(なお、遺言者の死亡後でないと請求が出来ません)

  • 交付請求書
  • 法定相続情報一覧図の写し(相続人の住所記載がない場合、別途住民票が必要です)
  • 顔写真付きの身分証明書(免許証など)
  • 手数料1400円(収入印紙で準備します)

※法定相続情報一覧図がない場合は、遺言者の戸籍謄本や相続人全員分の戸籍謄本、相続人全員分の住民票写しなど、膨大な必要書類が必要になりますので注意が必要です。ちなみにこういった手間がかかる可能性もありますので、公正証書遺言の方がコストはかかりますがおススメです。

大事な注意点

自筆証書遺言保管制度の注意点としては法務局のHPにも書かれていますが以下の内容です。

  1. 遺言の内容について相談に応じてもらえない。
  2. 遺言書の有効性を保証するための制度ではない。

上記の2点に加え、法定相続情報一覧図がない場合には証明書の請求にかなり多くの書類が必要になってしまうため、結局のところ、公正証書遺言を使った方が良いのではないか?となってしまう所だと思います。

まとめ

今回は自筆証書遺言保管制度の解説をさせていただきました。まだまだ使っている人の少ない制度ですが、その理由としては、「せっかくなら公正証書遺言にしよう」と判断される方が多いからではないかと思います。・・・とはいえ、士業と公証役場の力を借りてちゃんとした公正証書遺言を作成しようとすると少なくとも10~20万円以上のコストがかかりますので、安価で遺言書を残しておきたい方は、検討してみても良いと思います。

投稿者プロフィール

出野 勝巳
出野 勝巳
1980年生まれ。若い頃はしがないバンドマンでヴォーカルをしていた。
不動産会社に勤務する傍ら、お酒を止めたことを機に39歳から勉強を始め、宅建を皮切りに管理業務主任者、簿記2級、行政書士と資格取得を通じてステップアップし、開業に至るという変わった経歴を持つ。